朗読シナリオ「せんもう」OPタイトル 第一章 誰も居ない街

○ 無人のオフィス街

人の気配の全くないオフィス街。信号だけが点滅している、一人歩いてくる河野啓太(36)、
食後の皿や料理がそのままに灯りの付いた無人のレストランやカフェ、ウインドーに飾られた動くマネキン、その様子を眺めている河野。
突然上空をカラスの群れが飛び交う。上空を見上げる河野。カラスの群れが河野に目がけて襲いかかる。
恐怖にひきつる河野の顔。

○マンション駐車場へ通じる階段
(夜)
薄暗い階段を駆け下りるジャージ姿の河野。ジョギングをするため車の前で軽くストレッチしながら駐車場の出口に向かう。
駐車場の出口あたりで一瞬黒い影が通り過ぎる。
河野、黒い影を見かけるが差ほど気に掛けず出口に向かう。
河野 「・・・・」

○同
駐車場出口
軽く腕を回しながら駐車場出口から出てくる河野。
出口に止めてあったワンボックスカーの横を通り過ぎる瞬間、河野に向かって突然突風が吹きつける。
河野、思わず風が吹く方向をむくと、そこには車と壁の間に真っ黒な不気味な空間が広がっている。                                             
その真っ黒な空間を見た河野、ゾットするほどの寒気を感じその場を足早に立ち去る。

○夜道

一時間後、薄暗い道をジョギングを終えた河野が戻ってくる。
マンションに向かって歩く河野、一時間前の突風と真っ黒な空間の事などすっかり忘れている。
前方にマンションの駐車場の出入り口の灯りが薄ぼんやりと見える。
河野が靴で砂利道の砂利を踏みつける音が響く 靴音SE「ジャリ ジャリ~」

○マンション駐車場の出入り口

河野、マンションの出入り口に近く。河野が踏みつける砂利音に別の砂利音が重なる。                                                   
靴音SE「ジャリジャリ~」                                           、

河野、後方に人の気配を感じるもそのまま歩き続ける。心臓の音がバクバクし過呼吸気味になる。
胸を抑えながら歩く河野の後ろ姿を凝視する何者かの視線。
背後からの強い視線に堪えられず無意識に後ろを振り向いてしまう河野。
河野を見つめる目だけが怪しく光る黒い影。
河野に向けゆっくりと指差しする黒い影。
河野、一瞬固まるがすぐに我に戻りマンションの中に入っていく。

タイトル<SENMOU~せんもう>

○自宅マンション・部屋寝室                                                                            
 眼球からズームアウト 目を大きく見開く河野。額から大粒の汗が噴出している。

○同 一年後・
昼間
マンション外観・室内 パソコンを操作する河野(36歳)
パソコンの画面 キーボードを叩く指先のup
パソコン画面にデザインされた画像が映る
携帯電話が鳴る音SE「♪ツルツル~」
おもむろに携帯電話の着信名「瑞穂」を見て立ち上がる河野。
河野「もしもし・・あ~」
河野、電話にでるも不意に襲う眩暈にその場にうずくまる。携帯電話から瑞穂の声が聞こえる。
瑞穂「啓太、啓太どうかしたの?」
河野、意識がしだいに遠のいていく。

○無人のオフィス街 
道路の真ん中に置いてある椅子
河野のゆっくり目を開けると椅子に座っている。椅子に固定されていないのに手足が動かない。
何とか手足を動かそうともがく河野。
どこからとなく太鼓や鐘、笛の音が聞こえてくる
太鼓や鐘の音SE「♪ドンドコドン~チィ~ン」
音に合わせて踊る白塗りのゾンビのような一団が椅子に座る河野のまわりを回る。
無表情の河野。
流鏑馬のように突然疾走する馬上から河野に向けて矢が放たれる。
河野に向かって飛ぶ矢。
河野の真正面から飛んでくる矢を確認し一瞬目を大きく見開くも目をつむり首をすくめる。
矢は河野の頭すれすれに通過し後ろで踊る白塗りの男の頭部を貫通する。
その瞬間、血しぶきが河野の頭から顔面に流れ落ちる。

○広告代理店A社の会議室
代理店部長の高原と数名の社員の前で
河野がデザインした広告をプレゼンしている。
代理店の高原部長がスマホをいじりながら椅子にふんどり返って座っている
高原部長「河野ちゃん、いいんじゃないのそれで」
河野「ありがとうございます」
高原部長「さすがだね、売れっ子のグラフィックデザイナーは違うね」
河野「部長、それはいやみですか」
高原部長「そんなことねえよ、じゃあ、来週のスポンサープレゼンよろしくね」
高原部長そそくさと部屋を出て行ってしまう。

○同・通路
高原部長の部下の山川と河野が歩いている
山川「さすがですね、河野さん、一発OKって」
河野「どうだかな、部長、俺のプレゼン聞いていたのかな」
山川「どうですかね、スマホのメールばかり気にしてましたね」
河野「また、あれ?」
山川「気が付いてましたか?また新しい彼女ができたんですよ
それで奥さんとまたもめて大変だったらしいですよ」
河野「・・そうなんだ」
山川「それじゃ、河野さん16日金曜日の11時からのスポンサープレゼンお願いしますね」
エレベーターに乗り込む河野
河野「はい、分かりました。じゃあ、また来週..」
山川「ねえ、河野さん、またキャバ行きましょうよ!」
河野、笑顔で指でOKする
エレベーターの扉がしまる。

○車内
車を運転している河野。

○自宅マンション・駐車場出入り口

河野が運転している車がマンション駐車出入り口から入る

○同・
エレベーター
扉が開き、河野が降りてくる。

○同・入口ドア前~
部屋
鞄から鍵を出しドアを開け部屋に入る河野
部屋のスイッチを入れる
灯りが付くといきなり瑞穂が立ちすくんでいる
驚く河野

河野「ああ!なんだよお前~」

       腕組した瑞穂、いたずらっぽく笑いながら

瑞穂「ふふふ、やっぱりびっくりしたか」

河野、鞄を置き上着を脱ぎながら

河野「どうやって部屋に入ったんだよ」

瑞穂「マジックよ、ほらね」
ソファに座っている河野に合鍵を見せる瑞穂

河野「瑞穂、いつのまに合鍵なんか作ったんだ」

瑞穂「あなたが、いつまでたっても決めないからよ」

河野「なにを….」
瑞穂、少し怒りながら

瑞穂「なにをって!この口か…」

       瑞穂、河野の唇を指で摘もうとする

河野「やめろって、それより合鍵を返せよ、
お前のやったことは窃盗に不法侵入だ」

瑞穂「よくも婚約者に、そんなことゆうわね」

河野「いつお前が、俺の婚約者になったんだよ」
「いいから鍵を返せ」

       河野が瑞穂の持っている鍵を奪おとソファの前でもみ合っている。

      瑞穂は笑いながらジャレてる感じ。
       
行きよいあまり棚に置いてある壊れかけた古いランプが落ちる。

      河野、慌てて拾おとするも、
急に眩暈がしソファにうずくまる。

瑞穂「啓太…」

○同・寝室
ベッドに寝ている河野。
ゆっくり目を開けると瑞穂の顔が見える

瑞穂「おはよう、いつまで寝てるの…」

河野「瑞穂、何でお前がいるの…?」

瑞穂「何、寝ぼけてるの、夫婦だもんいるに決まってるでしょ」

河野「夫婦…?どうして」

瑞穂「どうしてって、一年前に結婚したじゃない」

何か部屋の中に違和感を感じる河野。

ふとカレンダーに目をやり、次に時計の日付と時間を確認する。

河野「瑞穂、今日は何にち?」

瑞穂「16日の金曜日よ」

河野すぐにベッドから起き上がり居間のテレビのスイッチを入れる。
テレビのお天気ニュースが流れている
テレビ画面
「今日、10月16日金曜日お天気は”晴れ”です。
時刻はもうすぐ午前10時になります」
河野、呆然とテレビ画面をみつめている。

河野「もうすぐ10時って16日の金曜日はスポンサープレゼンだよ」

○同・玄関口
鞄を抱えドアを開け飛び出してくる河野

  玄関口から河野の後ろ姿を見送る瑞穂

瑞穂「・・・」

○道路・車内
あせりながら車を運転している河野
片手で携帯をかける

河野「あ、もしもし山川さん」

  携帯から自動音声
自動音声「あなたのお掛けになった電話番号は現在使われておりません」

河野「え、ふざけんなよ!」
携帯を放りなげる河野。

○広告代理店A社・
地下駐車場
駐車場に止めた車から鞄を抱え飛び出してくる河野
地下から階段を駆け上がってくる。

○同・一階受付フロアー

  河野、フロアーにある時計を見る
時計は10時50分を指している。

 河野、息をきらしながら

 河野「まにあった・・」

河野、受付に向かい

河野「デザイナーの河野ですが、第一営業部の山川さんをお願いします」

受付嬢「お待ちください」

河野「あ、はい」

 受付嬢、名簿を何度も見るが山川の名前が確認できない。

 受付嬢「第一営業部ですか?」

河野「はい、間違いありません。何度も来てますから」

受付嬢「申し訳ありません。第一営業部に山川という者はおりません」

「他の部署にもおりませんが」

河野「何をいってるんだ!11時からスポンサープレゼンがあるんだよ」

「だいち君いつも連絡をとって通してくれたじゃないか」

「俺のこと覚えてないのか!証拠にプレゼン用のポスターをみてやるよ」

  河野、鞄からデザインしたポスターをみせようと取り出すが、
  何も描かれていない真っ白なポスターである。

  呆然とする河野。
エレベーターから高原部長と山川が降りてくる。
  それを目にした河野、駆け寄り。
高原部長と山川の前に立ちふさぐ。

河野「高原部長、河野です」

部長「誰だね、君は、だいち私は高原ではない」

河野「今日、11時から丸三ビールのプレゼンですよね」

部長「君、いい加減にしたまえ」

河野「あ、山川さん、こんどキャバクラに行く約束したよね」

山川「やめてください、それに僕は山川じゃありません」

河野「そうだ、パソコンに入っているデザインのデータを見てくれ」

   河野、鞄からパソコンを取り出しパワーを入れると、ブレークダウンと表示される
河野、
  その場に座りこんでしまう。
高原部長と山川その場から去る。

  座りこんでいる河野のに向けあらゆる罵詈雑言嘲笑を浴びせる陰の声。

○自宅マンション・玄関口~居間

帰宅する河野、疲れきった様子で居間のソファに座り込む。
瑞穂がその様子を見ている。
河野、瑞穂を見て
河野「君は、いったい誰なんだ?」
瑞穂「あなたの妻よ」
河野「違う!僕の知っている瑞穂はもっと明るくお気楽な人間だ」
瑞穂「じゃあ、あなたは誰なの?」
河野「誰なのって…俺は..」
瑞穂を見つめる河野。

○K病院・MIR検査室

車椅子に乗った河野。通路の反対側を巫女さんみたいな格好をした女とすれ違う。
検査機の台に乗り、頭を固定された河野。
検査技師「河野さん、それでは始めますから、何かあったらボタン押してくださいね」
非常時のボタンを握りしめている
MRI検査機の中に入っていく。
目をつむっている河野、検査機の音が絶え間なく聞こえる。
検査機の音SE「ガガガ、ドッカン、ドッカン~」
河野、検査機の中でいきなり目を開けると1センチぐらい前に白い壁が見える。
その圧迫感に息が次第に過呼吸気味になる。
ボタンを握りしめる手。

○高層ビルの建築現場・高層階

ストレッチャーに乗せられ運ばれていく河野。
河野目線で通路の白い天井が流れていく。
病院のはずがいつの間にか高層階の建築現場の通路になっている。
あっちこっち引きづりまわされる河野。
作業員A「どこから落としましょうか?」
作業員B「もちろん最上階だよ」
作業員の話を聞いている河野。体を動かそうとするが身動きが取れない。
通路反対側から従業員の話し声が聞こえて来る。
作業員B「まずい、隠れろ」
作業員、河野を乗せたストレッチャーと一緒に物かげに隠れる。
その前を従業員が携帯で話しながら通過する。
従業員「あ、もしもし…..」
河野、助けを求め必死に声を出そうとするが、声がでない。
もがく河野。
薄笑いを浮かべる作業員
作業員A「ふふ・・」
作業員B「まだまだだな」
ストレッチャーに寝ている河野の顔を覗きここむ作業員
河野目線の二人の作業員の顔up。

○ビル内・通路

作業員に押され誰もいないビルの廊下をストレッチャーに乗せられ移動する河野。
河野「お前ら、俺を何処へ連れて行くつもりだ」
無視する作業員

○同・ホール

永遠と続く無人の通路から扉が開くと突然、人で溢れたホールに出る
人々の声が響く、雑踏の中を進む河野を乗せたストレッチやー
河野、行き交う人に助けを求めようと必死で訴えかける。
河野「おい、助けてくれー、こいつらは俺を殺そうとしている、なあ頼む警察の連絡してくれ」
河野の言葉にも周囲の人々はまったく無関心、無表情で通り過ぎる。
薄笑いを浮かべる作業員
作業員「ふん、無駄だよ」
賑やかなホールからまた薄暗い通路に入っていく
河野、疲れ切った表情で目を瞑る。

○同・暗闇の世界

ふと目をさまし、もう一度、目をつぶると暗闇の中に体が浮かんでいる。
自分の意思で浮いた体を自由に動かす。浮いたまま薄暗いビルの中を漂う河野。
自由に体が動くことが楽しくてしょうがない。
いつの間にかビルの最上階屋上にいる河野。
自分の意思で動いていた河野がいつの間にか、体のコントロールが効かなくなり
最上階のフェンスを越え地上が真下に見える
河野、高所からの落下の恐怖に怯える。
地上の風景がクルクルと回る。

○病院・病室

突然、蛍光との灯りがつき看護師が入ってくる。
目を覚ます河野。
河野「ここはどこ・・」
看護師「病院ですよ」
河野「どうして俺、ここにい?」
看護師「さあ、どうしてなんですかね」
河野「俺を家に帰してくれないか」
看護師「そうですね、先生に聞いてみますね」
河野ベッドから起き上がろうとするが、そのままベッドから転げ落ちてしまう。
河野「あ・・」
看護師「あのね、あなたは歩けないの、だからどこへもいけません」
看護師、そのまま病室から出て行ってしまう
河野、何とかベッドに戻ろうとするが、またベッドから落ちてしまう。

○無人のオフィイス街・歩道

無人の街の歩道に佇む河野。
河野、自分の手で足をさすり自由に動けることに安心する。
ゆっくり歩いているが次第にスピードが上がり走り出す河野。
しかし、どこまで行っても誰もいな。
息を切らした河野、前方でカラスの集団に襲われている人物を見つける
襲われている人物が自分であることに気が付く。
河野「あれは・・・」

○同・道路

流鏑馬の馬が道路を走ってくる。
河野、馬の蹄の音に気がつく。
河野、振り向くと椅子に座る自分(河野)を確認する。
流鏑馬から放たれた矢が白塗りの男の頭を貫通する
河野、呆然と立ちすくんでいるとカラスの群れと流鏑馬の馬が
河野に向かってくる。
河野、走って逃げビルの角を曲がるとビルから出てきた広告代理店の高原部長と山川にでくあす。
二人を見て立ち尽くす河野に山川部長が声をかける。
高原部長「河野ちゃん、頼むよ今んどの丸三ビールのスポンサープレゼン、君にかかってるからな」
山川「河野さん、プレゼンうまくいったら行きましょうねキャバ」
高原部長「何だ、お前ら俺も連れてけよ」
山川「部長、そんなこと言ってまた、奥さん怒られますよ」
笑いながら去る二人を見送る河野。
河野、空を見上げ目を閉じる。