朗読シナリオ 第二章 悪夢の中の光

2023年7月30日

○K病院・病室

ベッドに寝ている河野。目をパット開けると母親の明子と看護師と医師の上田が見守っている。
しかし、何かが違う不思議な空気感が漂っている。

明子「啓太、わかる?」

河野「ああ、どうなったんだ俺…」

明子「瑞穂さんが、救急車を呼んで呼んでくれたんだよ」

河野「瑞穂は」

明子「仕事よ」
担当医が河野に声をかける。

上田医師「河野さん、医師の上田です。」

河野「先生、俺は一体どうなっているんですか?」

上田医師「軽い脳梗塞ですね。幸い発見が早かったからよかったですよ」
河野、自分の体の不具合に気づき。

河野「右手が動かなですが」

上田医師「軽い脳梗塞と言っても、全く症状がでないことはないですから」
「今、リハビリをやれば、ある程度は回復はできますから」

河野「僕の仕事は、デザイナーで絵を描くのが仕事なんですよ」
「ある程度って、この手じゃ仕事できないですよ」

明子「啓太、今は仕事なんて言ってないで」
落ち込む河野。

看護師「河野さん、リハビリを担当するセラピストさんがきますから相談してみてください」
しばらくするとセラピストの山本がやってくる。

山本「河野さん、セラピストの山本です。よろしくお願いします」

河野「・・・・」

○同・病室(夜)

ベッドに寝ている河野。喉に痰がからみ苦しげにベッド脇のコールボタンを手探りで探す。
やっとの思い出でコールボタンを押す河野。
いきなり病室のカーテンを開け入ってくる昼間の看護師。
喉を指差す河野。
看護師、無表情でいきなり痰の吸引機のノズルを河野の喉に突っ込み痰を吸い取る。
河野、あまりの苦しさに頭を枕に打ち付ける。
看護師、御構いなしに今度は左右の鼻の穴にノズルを突っ込む。
河野、手で払い退ける仕草をするが、余計にノズルを突っ込もうとする看護師。
そのまま気を失うようにベッドに横いたわっている河野。
河野の肩を叩くセラピストの山本。

山本「河野さん、起きてください。リハビリの時間ですよ」
目を開ける河野。

河野「リハビリって、夜じゃないか?」

山本「リハビリに昼も夜もありませんよ。じゃあ行きましょう」

河野「どこへ行くんだ」
山本、河野を車椅子に乗せ病室を抜け出す。

そのままエレベーターに乗り、何度もエレベーターの乗り降りを繰り返す。

○ある宗教施設・入り口ドア前~内部

セラピストの山本が押す車椅子に乗った河野。

河野「どこなんだここは、病院じゃあないのか…」

山本「河野さんに、最高のリハビリを提供してくれる所ですよ」
ドアが開き施設の中に入る山本と河野。
施設の中は薄暗く、真ん中で護摩炊きの炎が見える。
その前で祈祷師の女がお札を炎に投げ込み拝んでいる。
周囲には信者らが数十人が見守り、
祈祷師の女の前に患者らしき人が数人並んでいる。
河野も患者の列に並ぶも、セラピストの山本はいつの間にか姿が消えている。
患者の順番が進み河野の番になる。
その様子を見た信者。

信者A「これは、長くなるど」

信者B「可哀想になあ…」
祈祷師が大幣を車椅子に乗った河野に向けて左右に振り回す。
河野、目を瞑り無言でいる。
祈祷師の女が河野の麻痺した脚、腕、喉に左手をかざし、それぞれの患部をなぞるように手を動かす。
しばらくし河野、麻痺した手を見ながらいゆっくり動かす。

河野「動いた・・・」

祈祷師「手だけじゃないよ、立ち上がってみなさい」
河野、ゆっくりと車椅子から立ち上がる。
そして麻痺している右足を前に出し、次に左足を出す。
信者から驚きの声が上がる。

河野「歩けた・・どうなってるんだ」

祈祷師「これ、全て神の思し召だよ」

河野「神って、これは夢じゃあないのか」

祈祷師「夢ではない、今、あなたは歩いたではないか」

河野「夢でないなら、インチキイカサマだ」
「それに、ここはどこだ?夢でないなら病室に戻してくれ」

祈祷師「病室に戻れば、また歩けなくなるし手も動かなくなる」

河野「俺を、ここに閉じ込める気か」

祈祷師「そうだ、あなたはここからもう出ることはできない」

河野「うるさい」
河野、車椅子に座り出口に向かおうとすると信者たちが河野の車椅子を取り囲む。

河野が乗る車椅子を信者が押し、小さ部屋に押し込む。

○同・小部屋

薄暗い部屋の中、車椅子に乗った河野。
河野の目の前にスクリーンが張られている。
スイッチが入り、スクリーンに映像が映し出される。
その映像を見入る河野。
スクリーンに映し出された映像は、最初は穏やかな自然の風景であったが
次第に戦争や事件、事故などの残酷な映像へと変わっていく。
河野、あまりの残虐さに目を瞑るが、瞼の裏にも残虐な映像が映り込んでいる。
河野、呼吸が荒くなり、思わず叫ぶ。
河野「やめろー」
スクリーンに光の映像が映る。
スクリーンから河野に呼びかける男の声が聞こえる。
一作「啓太・・啓太」
河野、ゆっくり顔を上げスクリーンを見る。
河野「父さん・・・」
一作「啓太、起きろ!早く行くぞ」