朗読シナリオ 第三章 回想と幻覚と現実

2023年8月9日


○回想・自宅 居間

河野啓太10歳、電車の模型で遊んでいる。
啓太「ねえ、父さん、こんどの日曜日に183系の特急あずさ見にいくよね」
母親の明子、キッチンで夕食を作っている。
明子「駄目よ、お父さんは仕事なの」
啓太「え~、今度の休みにあずさを見に行く約束したのに、なんだよ
183系のあずさはもう最後で見れないんだよ」
父、一作の声「ただいまあ」
啓太「あ、父さんだ」
部屋に入ってくる一作
明子「お帰りなさい」
一作、啓太への土産を持っている。
一作「啓太、ほら、お前のほしかったやつ」
啓太、一瞬にして笑顔に戻る、みやげの包みを開ける、古臭い鉄道員が使う合図灯のカンテラが出てくる。
啓太「カンテラだ、どうしたのこれ」
一作「父さんの知り合いがな、捨てるっていうから貰っただよ」
啓太「へぇ~すげえじゃん」

○同・自宅 庭(夜)
灯りが消えた庭でカンテラを振る啓太
その啓太に向かって電車の出発進行の指差し合図をする一作
一作「安全確認、出発進行!」
啓太、カンテラを振り「出発進行!」
一作、電車が走るマネをして庭を走る
一作「ガッタンゴットン~」
それを見て喜ぶ啓太。

○同・自宅 寝室
明子「啓太、喜んでたね」

一作「そうだな、やっぱり特急あずさ見せてやるか」
明子「大丈夫なの、夜勤明けで」
一作「まあ、何とかするさ」

○同・自宅子供部屋
啓太、カンテラを磨いている

○同・自宅玄関~居間(翌朝)

朝食の準備をしている明子。

明子「啓太、父さんがね、あずさ見にいくってさ」
啓太「え、本当に」
明子「あまり、父さんに無理いっちゃだめよ」
啓太「父さんは」

明子「もうとっくに会社に行ったわよ」
啓太「ふん~、ねえ父さん忙しいだね、やっぱさあやめようかな、見にいくの」

明子「あら珍しいわね、そんなこと言って、でも大丈夫よ」

○同・当日(朝)
夜勤明けの一作、車を運転している。
○同・自宅
啓太「父さん遅いね、駅に8時45分着だから、
もうそろそい出ないと」

明子「もうすぐ帰ってくるはよ、会社でるとき電話があったから」

○同・渋滞道路

一作「何だよ、いつもすいてるのに今日に限って渋滞だよ」
一作、車で横道に入る、狭い道をすり抜けて幹線道路でる。

一作、時計を見る
一作「まずいな」
車のアクセルを踏む
一作の運転する車がカーブを曲がるとハザードが付いた大型トラックが停止している
思いっきりブレーキを踏む一作。
車のブレーキ音と衝突する衝撃音SE~「キキ~ガシャ」
○同・自宅
電話が鳴る
明子「はい、河野です、はい、え、主人が事故!」
啓太、持っていたカンテラを床に落とす。
啓太「あ、」
カンテラのガラスにヒビが入っている
○同・自宅仏壇 一作と啓太が写った写真
カンテラを持つ啓太とカメラに向かって指差しポーズする一作の写真
啓太「僕があずさなんか見たいなんていわなきゃよかたんだ」

明子「そんなことないよ、お父さんはねえ啓太の喜ぶ顔をみたかっただけなのよ」
ヒビが入ったカンテラを大事そうに持っている啓太。

○暗闇の中から啓太を呼ぶ声
暗闇の中でカンテラの灯りがゆれている
暗闇の世界の中に立つ啓太。

啓太の真正面に立つ黒い影がしだいに父親の一作に変わる
一作「啓太、啓太もう帰れお母さんの所へ」
啓太「父さん」
一作「分かったか啓太、ほら壊れたカンテラ直したからな」
一作の手から啓太にカンテラを渡そうとするも
一年前に見た目の光った黒い影が一作とオーバーラップし光の中に消えていく。
それを呆然と見つめている啓太。
啓太「あれは・・父さん」

○K病院・病室

河野、ベッドで目をさます。
明子と瑞穂の顔にピントが合う
明子「啓太、啓太」
河野「ここはどこ・・これは現実なのか」

明子「啓太、病院よ、あなたねここ三日間、昏睡状態だったのよ」
河野「え、母さん、父さんは」
明子「何いってるの、いるわけないでしょ」

啓太「父さんが、助けてくれたんだ、父さんが母さんの所に帰れって」
明子「そう、お父さんが」
瑞穂「啓太、大丈夫、心配したよ」
河野「瑞穂・・なあ今これは現実なのか夢なのか俺にはわからない」
瑞穂「現実よ、分からないの」
河野「ああ、」
瑞穂「わかったは」
瑞穂、いきなり河野にキスをする、唇をなかなか離さない瑞穂。
河野、息が苦しくなりはねのける。
河野「ああ、もう分かったよ、相変わらずだな」
明子「啓太、瑞穂さんがね、部屋に入ってっ救急車を呼んでくれたのよ」
河野「え、どうやって部屋に入ったんだ」
瑞穂「だって合鍵持ってたから」
合鍵を見せる瑞穂
河野「お前、合鍵まだ持ってたんだ」
瑞穂「何言ってんのあなたが作れって言ったじゃない」
河野「俺が、お前が勝手に作ったんだろうが」
瑞穂「何それ、失礼ね」
明子「何言ってんの啓太、瑞穂さんが来なければ、どうなっていた思うの」
河野「そうか、瑞穂は命の恩人か」
瑞穂「ふふ、どう私のありがたみが少しはわかったでしょ、じゃあこれで決まりね」
河野「え、何が」
瑞穂「また言ってる」
河野「あ、そうだ今日は何日だ」
瑞穂「16日の金曜日よ」
河野「あ、スポンサープレゼンにいかないと」
河野、ベッドから起き上がろうとするが、全く動けない
明子「何いってんの,行ける訳ないでしょ、あなたは体が麻痺してるのよ」
瑞穂「プレゼンって丸三ビールのプレゼン」
河野「ああ」
瑞穂「丸三ビールの広告デザインの仕事って何も決まってないわよ」
河野「決まってないって代理店のプレゼンでもうokもらってるし」
明子「そんな仕事のことばかり言ってないで、少しは体のこと考えなさい」
河野「あれって夢なのか・・」

○同・医師と看護師が入ってくる
上田医師「河野さん、医師の上田です。気が付きましたか、」
河野「先生、どうなってるんですか僕のからだ」
上田医師「うん、脳梗塞ですな、もう少し発見が遅れいればよくて寝たきり最悪呼吸停止でしたよ、あなたはラッキーでしたよ」
河野「先生、今思い出しても怖くて、自分に起きたことが何が現実なのか夢なのかが全く分からないのです」
上田医師「それはおそらく、せん妄ですな」
河野「せん妄」
上田医師「そう、急激に環境が変化することで脳が混乱するんですな、今回、河野さんは脳梗塞になり。脳細胞の一部が死滅することで体が右半身麻痺になり体が対応できずに幻想や幻聴が脳の中で起きたのです。」
河野「じゃあ、僕が体験したことはすべて夢ということですか」
上田医師「まあ、そいうことですな。それで河野さんあなたの担当する、看護師の野沢とセラピストの山本です」
野沢「野沢です。よろしくお願いします」
山本「山本です。よろしくお願いします、これから頑張ってリハビリしていきましょう」
河野「前にどこかで会いましたっけ」
山本「いいえ、初めてですよ」
二人の顔を見ながら
河野「そうですか」
明子「啓太、これ、お父さんがお前を守ってくれたのよ」
啓太がカンテラを持ち一作が指差し確認のポーズをした写真を見る。
1年前の黒い影と夢の中の影と写真が一致する。
啓太「あれはやっぱり父さんだったんだ」

○自宅マンション(半年後)
病院を退院をし自宅に戻ってきた河野
瑞穂に支えられて部屋に入ってくる。
河野、真っ先に棚の上のカンテラを見つけ手にする。
ヒビの入っているはずのカンテラが綺麗に修復されている。
河野「あれは、夢でも幻想でもなかったんだ」
瑞穂の声がオフで聞こえる
瑞穂「それでさあ、いつ結婚するの、もうねえ、逃げられないわよ。
私がいなければ、あなたは生きていけないのよ、わかってるよね」
カンテラを持つ啓太と指差しポーズの一作の写真
END